So-net無料ブログ作成
浅田次郎 ブログトップ

見知らぬ妻へ [浅田次郎]

見知らぬ妻へ

見知らぬ妻へ

  • 作者: 浅田 次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: 文庫
8つの物語から構成される短編集。
どれもが切なさを纏った色に染め上げられている。
物語の中に孤独と寂寥を刷り込んだという仕上がり。
中でも表題作でもある「見知らぬ妻へ」は印象的だった。
北海道で事業をしていた花田は、借金から家族を守る
為に偽装離婚を行ったが、離れて暮らす時間と距離が
本物の離婚を引き込んでしまった。
子供二人を妻が引き取り、東京へ流れてきてからは
盛り場でキャッチをして日々の糧を手にしている。
妻への贖罪の意識というわけではないか、毎月の仕送り
は欠かさない。その仕送りの後に掛かってくる娘の
電話が唯一の命綱。
そんな日々の中で花田は一人の女と偽装結婚をするはめに
なる。一度は断るものの、正月を目前に控えて押しかけ女房
のようにドアの前に佇む女を迎え入れる。
偽りの結婚生活とも言えない妙な正月を迎えるのだが、花田の
為に尽くす女の姿、片言の言葉で交わす会話に温もりを憶える
のだが、それも長くは続かず、売られていく女。
地面を這うような日常から、抜け出すことが出来るかもしれない
と思った矢先の出来事。
借金から離婚、流れ果てた地で触れた切ない温もりさえも
指の間からこぼれるように流れていく。
出来上がる一歩手前のジグソーパズルを運悪く壊してしまった
場面は物語を象徴している。
何もかもが上手くいかず、娘も引き取れず、悲しみを抱えた
見知らぬ妻をも救えなかった花田。
どこまでもが哀しく切なく徹底して孤独である花田。
状況は違えど、花田が抱えてしまった孤独ややるせなさは
今を生きる人々の心の底に流れるものと似ているのではないか。
そう思うとより切なさと寂寥感が胸に広がり、共感を呼び込む
物語ではないだろうか。

地下鉄に乗って [浅田次郎]

地下鉄ストアの一角にある会社に勤める
主人公真次が、かつて地下鉄に身投げした
兄の命日に過去へタイムスリップする。
そこで真次は「アムール」と名乗る不思議な
男と出会う。
この「アムール」が実は自分の人生に大きな
影響を与える人物であった。
タイムスリップした過去では、このアムールが
軸となって物語は転がっていく。
自殺した兄にも再会を果たすが自殺を止めることが
出来なく、運命の前で自らの無力感に打ちひしがれ
ながら、再び現実に戻ってくるのだが、タイムスリップは
一回に留まらず、時間をおいて何回か真次を過去へと
運んでいく。
また、職場の同僚でありながら、愛人でもあるみち子も
何故か真次と共に、あるいは自分ひとりで過去へと
引き戻されていく。
そして、みち子が過去へと導かれていく理由が真次や
真次の家族との間にある暗い絆によるものだと判ったとき
衝撃の事件が起こる。
決して兄の自殺を止めること、運命を変えることが
叶わ無かったこととは相反して、みち子が取った行動は
真次の人生を変えてしまった。

子供の頃から父と反目してきた兄。そして兄の自殺が少なからず
父との確執にあったと感じた真次は、この事件を機に兄と同様
父に背を向ける。
父や母の関係や父と兄との事を過去に帰って知ったこと、父の
まだ若かった頃の厳しかった環境、時代を知りそれぞれの人生で
抱えている大きな哀しみを知り、またみち子の深い闇に包まれた
過去を知り、自らの人生、これからの人生を問い直す物語。
物語の終末に、タイムスリップした日にあった過去の恩師のっぺいに
語った真次の言葉がそれを示している。

「ところで、小沼真次君。この先どうするつもりかね。出来ればお父上
と和解して、家業に参画されるのが良いと、僕は思うのだが」

「いえ、父とは会いません」

「それでは、君も、弟さんもご苦労なされるだろう」

「僕らはただ、父のように生きるだけです。僕の圭三も、小沼佐吉の
子供ですから」

物語の中盤までは、どのような展開になるのか、どんな物語なのか
よく理解できなかったが、中盤から先の展開から引き込まれて行く。
登場人物たちも、みな人としての温度を感じられて、物語としては
哀しみの色を帯びながらも、不思議と読む人の気分は沈んで行かない。
終盤のみち子の様は深い哀切に彩られていて、大きな力となって
心を揺すぶられるが、最終的には、明日へと向かう光を、地下鉄にて見つけ
温もりで物語を完結させていく。
浅田さんの物語は2作目ですが、心の襞に染み込むような叙情が豊かな
感じで、好感が持てます。


椿山課長の7日間 心の襞に染み込む叙情 [浅田次郎]

浅田次郎さんの作品、椿山課長の7日間。
浅田さんの作品を手にするのは始めてなのだが、
正直、今までは叙情の色が濃い作家さんという
先入観があって、手が伸びなかったのだが、
東野さん同様に、今まで読まなかったのを後悔
させる作品だった。
 家族との絆を描いた作品。たしかに叙情深く
あるが単に絆というものを美的に描写するのでは
なく、痛みをも伴う人という括りで描写されている
点で、安直になっていない点がいい物語だと感じ
させられる。
 椿山課長、デパートに勤める40代、高卒ノンキャリア
にしては異例の出世をした中間管理職。
厳しい予算の中で、目標の売り上げを達成させる為に
日々奮闘する。
 初夏のバーゲンを控えたある日、大手メーカーからの
接待を受けている最中に気分が悪くなり、運悪く
他界してしまう。
他界した先で極楽浄土へと導く役所のようなところで
現世への逆送を願い出る課長。
 多忙を極める職場、まだ小学2年生の子供、去年買った
ばかりの住宅ローンを残された妻のことが気になって
死んでも死に切れない愚直さで、やがて現世に送り返される
事になる。ただし現世にとどまれる時間は7日間、初七日だけ。
そして、身なりは生前とは似ても似つかない姿となっての逆送。
どれだけの事が出来るのか、不安と自責の混じりあった
複雑な気分を胸に現世に戻ってくるのだが、そこには思いも
かけない事実が待っている。
 椿山課長の他に、人違いで命を絶たれたやくざの組長、
不慮の交通事故に短い命を絶たれた小学生が、同様に逆送される
 まったく縁のゆかりもなかった3人が、再び現世に戻った時
不思議な縁に絡め取られていく。
 どの3人の主人公のキャラクターもいいのだが、椿山課長の
父がとても気に入った。
心の襞に染み込む深い情と、家族の絆との欠落に震える
主人公を暖める温もり。
 コミカルな筆致のなかに織り込まれた哀切、寂寥、苦悶、情愛
希望、勇気が絶妙なバランスで描かれている。
 楽しく読めて、心震える浅田さんの物語、気に入りました。


浅田次郎 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。