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影絵の騎士 [大沢在昌]

影絵の騎士

影絵の騎士

  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 単行本
未来型ハードボイルドエンターティメント小説
いろんな要素が詰まった盛りだくさんの小説
と言ったところだろうか。
物語の舞台はおよそ50年後の東京。
周辺の県の一部を巻き込んで新たに編成され、
そこには新たに建設された巨大な人工島も含まれて
いた。東京に供給するための電力を産み出す原発を
抱える事を嫌がる周辺の県の意向によりこの巨大な
人工島に原発を持つ事となった。
また、現在の新宿、渋谷あたりは路上に捨てられ、
路上で育ったホープレスと呼ばれる戸籍を持たない
者たちによってスラム化し、ホープレスチャイルド
達が徒党を組んで凶悪化。純血の日本人と混血の
ホープレスとの棲み分けが起きていた。
ホープレスの中でもスラムから這い上がる者もいた。
優秀な者はそれぞれの道でスラムから抜け出していく。
主人公のケンもその一人だった。
15で弁護士の使い走りから始まり経験を重ねる毎に
優秀は調査員へとなっていった。
街中の薬物中毒者や変質者、悪徳警官や徒党を組んだ
ホープレスの中を走り抜けていた。
だが愛した女を失ったときから、調査の一線から身を
引いていた。引退同然に。
生きながらにして、死んでいるような生活を送る中、
現役だったころの知り合いである、スラムの街を
B・D・Tと名づけたホープレス出身の作家のヨシオから仕事の
依頼を持ちかけられる。
作家として名をあげ、誰もが認める美貌をもった女優と
結婚して名声をあげていた。妻である女優を守って欲しい
という依頼だった。妻であるアマンダはムービースター。
そして、原発を抱える人工島は映画産業を支えるムービー
アイランドとして夢の地となっていた。夢を売る地、犯罪
の影が見えないところで女優を守る仕事。
一線を退いていたこと、映画の世界から遠いところで
生きて来たことによる一抹の不安、犯罪の影の見えないところで
護衛を依頼されたことへの疑問が湧き上がり一端は依頼を断るが
ケンの中で今の日々から抜け出すきっかけとなった。
そして、これらの疑問に対する答えを求めるべく東京に
戻るのだが、調査を進めることにケンの身に危険が及んでくる。
テレビ、ネットワーク、映画業界を巻き込んだ大きな闇の
渦に絡めとられながら、少しずつ核心に進んでいくケン。
その核心にあるものとはどんな闇なのか。
物語はおよそ50年後の首都を舞台としている。
今でも危険と隣り合わせが日常化しているが、新宿、渋谷がスラム化
しているというのはそれほど違和感なく受け入れられた。
物語の中でも語られるのだが、報道されないことはそれを受ける者に
とっては存在しない、無と同じであるという事になるのだろうが、実際
には見えない狂気が充満し捌け口を求めて彷徨っており、聞こえない
嘆き、呻き、叫びがこの街の空気を作り出し、不安がその身を包みこんで
いるように思える。こうした現実がさらにエスカレートする毒があちこち
転がっていることを思えばこのスラム化は物語にリアリティを与えてくれます。
物語の冒頭からこの舞台を突きつけられ、早い段階で引き込まれていきました。
未来を描く小説にはリアリティを感じさせることが読者を引きつける重要
な要素だろうと思います。
そして、テレビを含んだネットワークの巨大化。あらゆる物がネットワーク
で物色出来て、欲しいものが家に居ながらにして手に入る。今もすでに
そうした流れが出来つつあり、楽になるものであればそれを受け入れていく
心理はこの流れを加速させていくのだろう。
社会と自分とを繋ぐ糸をネットワークに依存する割合が多く占めれば、
それを流すテレビ側も視聴率を稼ぐことに躍起になり、捻じ曲げられた報道
が大きな顔して跋扈する。そこには倫理観の欠片も失くして。
だが、一方でホープレスから這い上がったケンの活躍によって事件の闇を
切り裂いていくのが痛快でもある。
ホープレスの時代を生き、サバイバルを勝ち抜くためには様々は事をして
きたケンではあったが、そこには最低限のルールがあった。
クールに正義を報道する裏側で行われるルール無視の行為を、淀んだ水を
飲んで生きて来たケンが叩くの皮肉が良かったりもします。
またケンを取り巻く他の登場人物が物語に色を付けてくれている。
こうした登場人物たちとの味のある会話が物語の温度を維持してくれている。
逆に心理を描写する場面は少なく、比較的さらりと流しているので
小説でありながらも、映像的という印象を受けましたね。
会話をしている主人公や脇を固める人物達の表情はどうなんだろうとか、
派手なアクションは映像にしたらどんな感じに仕上がるのだろうかと。
そういった意味でもエンターティメントとして充分に楽しめる作品だと
感じました。
舞台としてのスケールも大きく、人物もそれに負けないくらいドラマティック
であり、一気に読んでいける物語だと思います。
ハードボイルドでありながらも、エンターティメントとしての魅力も持ち
持ち合わせた作風が、個人的には大沢さんの魅力だと感じています。

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ずっしりとした重量感、濃密な感動 [大沢在昌]

新宿鮫が世に送り出されてから数えて9作目となる
今回の狼花。
 主人公鮫島は、デビューからここまで変わらず
新宿を離れていない。新宿署生活安全課警部の肩書きも
恋人の晶も、脇を固める登場人物も変わっていない。
 だが、今回の狼花は作者の言うとおり、大きな分岐点
となっているように感じる。
今までとは違った密度の濃い、重量感のある物語に仕上がって
いる。
 スケールが大きく、ページを捲るうちにどんどんと
引き込まれていくが、簡単には答えの出ない大きな現実の
問題をも踏まえていて、それをどう解決するかで主人公
鮫島と同期でありながら、組織上の上司である香田との
戦いが激しさを増して行く。
 後ろ盾のある香田に対して、孤高の鮫島。
追い詰められても決して諦めない姿、独りでも戦い続ける
様は、共感を呼ぶ。
 周りと取り巻く環境の中で、投げ出したくとも投げ出せない
ものを抱え、背負いながらも、それでも前を向いていかなけ
ればならない、そんな読者には響くものがあるだろう。
 今までとは違った展開を見せる、新宿鮫。
今後の展開を左右する、分岐点ともなりうる感の「狼花」。
次回はどんなドラマを見せてくれるだろうか。


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