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楽園 [宮部みゆき]

楽園 上 (1)

楽園 上 (1)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/08
  • メディア: 単行本
 
楽園 下

楽園 下

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/08
  • メディア: 単行本
 
「模倣犯」で真犯人を暴き出した前畑滋子は
山荘の事件以来、事件物の記事を書くことを
やめ、フリーのライターとして日々を過ごして
いた。
9年という月日。この流れは、あの忌まわしい
事件の記憶を風化させているかと思ったが
記憶の中に恐怖と共に打ち込まれた楔は未だに
抜けていなかった。
 ある日、滋子の下に一本の電話が入る。
是非、滋子に話を聞いてもらいたいと。
依頼は、もしかしたら自分の息子には人とは違った
特別な力があるのではないかと。それを確かめて
欲しいとの依頼が舞い込んできた。
その息子の描いた絵は実際に見たものではなくて
幻視をもとにしたものであった。
ひどく稚拙な絵であったが、その絵に描かれたものは
灰色の肌をした女の子が横たわっていた。
描いた息子が言うには、この子はこの家から出れなくて
悲しい子だと。
そして、それは16年前に自分の娘を殺害し、床下に埋め
火事で半焼した際に、警察に出頭して明るみに出た事件
の起きた家だった。
すでに時効が成立しており、罪に問われることは無く警察
が捜査をするという事はなかった。
この家となんら関係の無い少年にはその事実を知る術もなく、
この事件が起きる前にすでに他界している少年には描けるはず
の無い絵であった。
きっとこの家の事を知る機会があったのだと判断する滋子。
それを証明する事で依頼主でもある少年の母親に説明を
しようとする滋子。だが調査を進めるうちにこれは少年の
特別な力だと考えずにはいられないという結論に傾倒して
いく。また同時に事件の真相にアプローチするに従い
より深く関わりをもつようになっていく。
 絵を描いた少年、床下に埋められた少女。
共に当事者が他界しその航跡を追う作業。模倣犯の時よりも
さらに、滋子を前面に押し出し、滋子の仮説に基づいた展開
になっている。
 すでに当事者が死亡し、ここから更に新たな事件が起こったり
マスコミ、警察にも動きが見られない展開は、衝撃的であった
「模倣犯」とは違って静かな流れとなっている。
登場人物は決して少なくはないのだが、当事者は死亡、また
自分の娘を殺害したことにより、時効が成立したとは言え
世間の目を避けるように身を隠す少女の両親と妹。それ故
こちらも登場回数が少ない。やはり軸は滋子であり、依頼主
でもある少年の母親である敏子となっている。
 祖母に自分の人生を奪われた敏子でありながらも、その芯
には知性と強さを秘めていた。決して派手さは無く、どこに
でもいるお母さんという風情ではあるが、息子を愛する姿は
飾らない澄み切った透明感と凛とした強さを感じさせてくれる。
また一方、自分の娘を殺害してしまった土井崎夫婦。
登場回数は少ないものの、その設定故、登場の仕方、雰囲気
振る舞いには迫ってくるものを感じさせます。
 滋子が調査を重ねる中で少しずつ浮上してくる土井崎両親と
少女の関係。札付きの不良へと堕ち続けた少女に手を焼く両親。
 ある事件が引き金となり娘を殺害するのだがそこにたどり着く
過程を描く中では、子供を育てる中で忘れてはいけないもの、
欠けてはいけないものが、刷り込まれているように感じます。
 少女を殺害した事件の裏側に隠された真相の中で登場する
少女のかつての恋人。この男もまた問題のある家庭の中で時間を
重ねてきていた。
 札付きの不良へと転がり手を焼くばかりになってしまった
子供。そんな子供を切り捨ててしまった家庭。またそんな子供
でも更正の余地があると受け入れた結果、模倣犯の犯人と底流
で繋がりを持つ、他人を支配する欲望の中毒に掛かるまで子供
を腐らせてしまった家庭。
 いったいどうしたら良いのか。どうすれば良かったのか。
苦悩の中で苦りきった心情を噴出する大人達。
そして物語の最後、滋子の胸に去来するひとつの結論にこの
作品のタイトルの意味がずしりと降りてきます。
人が産まれながらにして背負っている深い哀しみを突きつけられた
ような気がしました。
 

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模倣犯 [宮部みゆき]

模倣犯1 (新潮文庫)

模倣犯1 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11/26
  • メディア: 文庫
 
模倣犯2 (新潮文庫)

模倣犯2 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11/26
  • メディア: 文庫
模倣犯3 (新潮文庫)

模倣犯3 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11/26
  • メディア: 文庫
模倣犯〈4〉 (新潮文庫)

模倣犯〈4〉 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 文庫
 
模倣犯〈5〉 (新潮文庫)

模倣犯〈5〉 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 文庫
この作品が単行本というまとまった形で
発表されたのが、2001年いまから6年前。
映画にもなり話題となった作品で、今頃
になって手にした事を読みながら後悔する
ほどに内容が濃くて、読者にインパクトの
ある作品だなと感じました。
そして6年の時間が過ぎた今でもその衝撃は
決して衰えていない。
映画は観ていないので、何とも言えないが
映像にするよりは、本という形でこの作品に
触れたほうがいいのではないかと思います。
ただ、映像になったときの出演者がどんな表情
で演技していたのかはとても気になるくらい
本のほうでは人物描写が濃いです。
物語は、公園で女性の腕が切断されて発見され
る所から幕が切って落とされます。
そして第2、第3の被害者が発見され連続殺人の
様相を見せてきます。
捜査が難航する中、犯人と思われる者から連絡が
被害者家族に入る。マスコミもこの事件を大きく
取り上げ番組を組んで報道をするのだが、放送にも
犯人は電話にて声の出演をする。
自分の筋書き通りに、世間を騒がせ、警察を翻弄し
被害者家族を悲しみの闇の底に突き落とす。
狂気に絡めとられた支配欲、独占欲が嬉々として闊歩
するように犯人の思うとおりに。
だが、二人組みを乗せた車が事故を起こし、この二人が
死体として発見され、そのトランクに死体があった事
から事件はこの二人が犯人として収束に向うように見え
たのだが、そう簡単には収束しなかった。
事件の気味の悪さといい、結末への流れといい、かなり
長い時間を掛けて構想を練られたと思うのだが、それ
以上に物語を動かす登場人物達の描写には脱帽です。
被害者の遺族の有馬義男。老齢でありながらも、人と
なりを見る目は決して衰えるどころか慧眼ですらある。
切断された腕を発見した塚田真一。高校生でありながら
自らも家族を惨殺された経験をもち、伏し目がちな姿の
裡に静かな怒りと自責の念を抱え込み少年の年でありながら
人の痛みを敏感に感じ取る、ある意味では老齢を感じさせる
痛ましい少年。
女性の失踪事件を基にルポを書いていた時に、事件を知り
事件に関わっていくことになる、良識派のフリーライター
前畑滋子。
事件を捜査する刑事達の後方支援を行う優秀なデスクを勤める
武上刑事。
自分の名前に曰くつきを背負い、気味の悪い幻覚に苛まれる
連続殺人の犯人、栗橋浩美。
少年の頃から、誰からも好感を持たれていた頭脳明晰、運動
神経抜群、容姿端麗な網川浩一。
蕎麦屋の息子で栗橋の幼馴染であり、少年の頃視覚障害で
皆からいじめの対象とされていた高井和明。
事件の当事者はもちろんの事、その脇を固める人物達の描写も
決して手を抜く事なく丁寧に描写されているのが印象的です。
事件に関わる立場の違いから、事件に対する姿勢や、事件を
見る視点、感情の違いがよく表現されているなと。
被害者の遺族であるという立場では同じ立場になる有馬義男と
塚田真一。自分の不用意な友達との会話が、自分の家族を殺害
される呼び水となった自責の念に縛られ続ける真一に対して
それを諌める義男との会話。
ここは心動かされます。そして人殺しという酷い事件が後に
残すもうひとつの殺人。間接的な殺人。残された者の精神を
殺していく殺人。そしてそれは犯人が直接手を掛けることでは
なく、残された者が自責の念に駆られて、自分で自分の精神を
殺していくことだと語る義男。
決してそうであってはならないと、行動を起こす義男。
何かが出来るわけでも、死んだ者が蘇るわけでもないけど、じ
っとしていられない。無骨であり不器用でありながらも、真一
の心の溶かしていく温もりのある義男の描写はとても良いです。
事件の後方支援を行う武上の言葉にも、日頃自分達が事件を
見る目というものがどういうものなのかを、はっきりとした言葉
で語られていたのが、印象的。
事実を見る目は、それを見る人の立場によって全く違うと。
自分の見ている方向が、見ている人にとっての正面であると。
人の数だけ解釈がある以上、どれが正面でどれが裏も無い。
事実はひとつでも事実には正面も裏も無いと。
義男には義男の解釈、真一には真一の、滋子には滋子の解釈が
あって、そのどれもが正面であり、側面であり、裏でもあると。
自分の見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じるのが
人であると。
自分の見ている角度からしか事実と向き合えないとなると、物事
を判断を誤ったり、全体を見れない。柔軟な思考と広い視野を
持たなければいけないなと。
実際、この物語の中でも、それぞれの立場の人達の視線は、それ
ぞれであり、事件の真相にたどり着くまでには誰もが事件を見る
角度を変えることになっている。
その中でも柔軟であったのが義男であったような気がする。
家族を殺害された悲劇の中になりながら、こうした思慮深さは
個人的にはとても印象的だった。
そして、作者がもっとも筆を走らせたのが犯人の描写だろう。
読みながら、被害者を傷つけ、玩具のように弄び、苦しめ、恐怖の
底に落とし、そこから這い上がれるのではないかという光を
一瞬だけ見せておいて、殺害してしまう様や、事件を芝居のように
演出をし、楽しむ様は読みながら自分の表情が曇っていくのを
感じられる程。
罪悪の欠片も無く、強欲と支配欲だけが存在する狂気。
どうして人を殺すのがいけないのかという言葉が聞こえてきそうな
程に。
どこかにこの犯人達のモデルとなった事件があったように、
それを模したと思えるように、シリアルキラーの描写もしっかりと
描かれています。
物語は割と早い段階で犯人が誰であって、どのように殺害をして
いったかが描かれていたので、あとはどのような形で犯人が逮捕
されるのかという点に注目していたのだが、ラストにて犯人と
滋子との対峙によって、このタイトルの意味がはっきりとします。
いったいなぜこのタイトルだったのかと、読みながら疑問だったの
がスッキリとします。
物語の流れから言って、犯人の逮捕の瞬間やその方法に関しては
それほど大きな意味をもっていなかったのかもしれないが、
少しだけ、あっさりとしていたかなという気もします。
ここらで、もうひと波大きなのが来るのかなと期待していたの
だが、思いのほかスッキリという感じだった。
それと、犯人はマスコミを上手く利用することによって、自分の
身に捜査の手が及ぶことを回避していた。
大衆がマスコミの報道によって、真実から遠ざけられていたという
事を思った時、別の物語を思い出しました。
野沢さんの「破線のマリス」と「砦なき者」
物語の流れは、「模倣犯」とはまったく違うのだけれど、マスコミ
の流している報道とされるものを、鵜呑みにしていては真実を
見誤るという点では凄く似ているなと感じました。
テレビで報道されているものを信じてしまいたいが、そこで少し
でも考えることをして欲しいと、語っていた野沢さんの言葉を
思い出しました。
それにしても、エンターテイメントとしても充実しているし、
いろいろな事を考えさせられるという意味では、ただ単に楽しめる
というだけでない、内容の濃い作品だと思います。
文庫では5巻という形態になって私達に提供されましたが、その
形以上に重みのある、厚みのある傑作ではないでしょうか。
物語の発表からすでに6年という時が流れ、今更何をとの声も
あるでしょうが、今でも十分に入り込める作品だと思います。
 


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魔術はささやく [宮部みゆき]

魔術はささやく

魔術はささやく

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1993/01
  • メディア: 文庫

この作品も楽しめる作品です。
宮部さんの作品では「火車」や「模倣犯」
「理由」など沢山のヒット作品がありますが
この「魔術はささやく」もその仲間に入る
いい作品ではないかと思います。

物語は、まったく違う場所と時間で自殺が3件
起きるのだが、この自殺はある関連性があった。
ある出来事に絡んだ3人が自殺をし、それは
得体の知れない力によって誘導された殺人では
ないかと疑い始めたのは、その出来事に絡んだ
4人目の人物だった。
そして、3人目の自殺者は道に飛び出しそこへ
走ってきたタクシーに撥ねられて死んだのだが
このタクシーの運転手の家族である少年がこの
一連の自殺事件に絡んでいく。しかしこの少年の
本当の父親は12年前に失踪をしていて、タクシー
運転手の養子となっていた。
そして、12年間失踪している父親とも深い関連が
あることを知り、愕然とする。
不気味な力によって引き起こされる自殺に、父親の
失踪が絡んでより複雑に物語は展開していきます。
その過程での、この少年の心理描写はもちろんのこと
事件や物語を構成する登場人物達の描写も丁寧に
書かれています。複雑に絡む事件の展開の上手さに負けない
人物描写、そして事件を動かす心理操作の恐さも読者を
より深く物語りの中へ引き込んでくれます。
また事件に関係した人達同士の関係もとても上手く
書かれているなとも感じます。
そして登場人物達のキャラがいいです。
主人公の少年もいいけど、この少年の母親がまた良かった。
毅然として世間の無責任な声に揺るがない強さと
優しさが良かった。


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スナーク狩り [宮部みゆき]

スナーク狩り

スナーク狩り

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 1997/06
  • メディア: 文庫

宮部さんの作品では「火車」が個人的には
もっとも気に入っていたのですが、この「スナーク狩り」
もそれに勝るとも劣らない作品だと思います。
物語の頭から読み手を引きずり込んでいきます。
そして散在していた登場人物がひとつの事件の磁力に
引き寄せられるようにして中盤から後半へと繋がって
行きます。
物語は過去に別れた妻と子供が何の罪もないままに、
理不尽にその命を奪われてしまい、その犯人が更正の
心を持っているかどうかを確かめようとし、裁判を前に
した被告の元へと向かうが、そこで眼にした被告の行動が
彼の種火のように燻っていた怒り、憎悪に火をつけて
しまう。そんな彼が企てた計画に巻き込まれていく
彼の会社の同僚と会社のお客だった女性。
自分を抑えきれない、怒りと憎悪に飲み込まれてしまった
時に、人は人を超えた怪物へとその姿を変えてしまうのかも。
また、家族を失った男を必死にとめようとした同僚もまた
被告の行動を目の当たりにし、自分の身の危険を感じたとき
彼もまた怪物へとその姿を変えてしまっていた。
物語の終盤、彼らの前では法は何の意味ももたないでいた。
法は罪人に寛容で優しく、理不尽に命を奪われる弱者に
冷たく厳しい。
激しく烈火の如く燃え盛る憎悪や怒りに飲み込まれたときの
人という姿を描いた作品だという気がします。


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理由 [宮部みゆき]

理由

理由

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2004/06/29
  • メディア: 文庫

とにかく長いというのが印象です。
ページ数は700弱で特別長くはないのですが
読んでみると、やたらと長く感じました。
物語は荒川区で起きた一家4人殺人事件の
回想という形で進んでいきます。
現在進行形という形でないため、状況説明や
事件の経過ををなぞるような感じで
緊迫感が感じられません。
事件は一家4人殺害というショッキングな
事件でありながらも、そうした衝撃が読む側に
伝わってきません。
ただし、展開として犯人が誰なのか、そこに
住んでいるはずの人が殺されたのではなくて
まったくの赤の他人が殺されており、その被害者の
身元がラストにたどり着くまで判らないという
展開で、そこにたどり着く為に多くの人達が登場し
多くの字数を割いているのですが、物語の展開が
ほぼこれになってしまっているのは不満が残るところです。
そして、その身元を割り出すのも警察ではなくて
報道をみた家族が自分の身内だと名乗り出るという
形で、長い時間と字数を割いた割にはあっけない
形で身元が判明してしまうところにも不満が残りました。
また、多くの登場人物の事件でのポジションやそれぞれの
関係性を咀嚼するのにてこずりました。
まぁ、これは読み手の読解力の不足が原因でもあるとは思いますが。
物語の色としてはミステリー色が強いことは強いのですが、こうした
展開には読み手の好みによって引き込まれるか醒めて
しまうか分かれるものだと感じました。

家やそこに住まう家族の在り方や家族を構成する各個人
の関係や心理描写を描いていますが、日常的であり
深い心理描写とも感じられないという事も引き込まれて
いかなかった原因かもしれませんが、犯人である女が
弟に犯行を告白してからの二人の心理描写はよく描かれていて
作者の力量が感じさせられます。
また、親の存在や親という形になる存在に対する怖さも
よく描かれています。
親という力が、子供たちの自由や考えを搾取している魔物
のようにも感じられると。そしてその力に抑圧された子供達が
それを上回るために形ある怪物になっていくのかもしれないと。

個人的にはやはり現在進行形の中での心理描写がどう描かれて
いるのかが楽しむうえでの軸になっているので、どうしても
評価は厳しくなってしまうのですが、読む人が読めばとても
楽しめるのかもしれません。

 


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名もなき毒 [宮部みゆき]

名もなき毒

名もなき毒

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2006/08
  • メディア: 単行本

このタイトルを目にした時には
いったいどんな毒がこの本の中に潜んでいるのかと
興味が湧き、手にしてみたのだが、その毒は自分
自身の中にも潜んでいるものだと突きつけられた
時には少なからずショックでもありました。

主人公の杉村は一流企業の社長の娘と結婚し
幸せな日々を過ごしていた。
彼は社内報を編集する仕事をしていたのだが
その職場にトラブルを引き起こす女性をアシスタント
として抱えていた。
徐々にトラブルの回数や規模が大きくなり、ついに
解雇するのだが、それはやがて大きな火の粉となって
杉村の身に降りかかることとなる。
解雇の際に、彼女の身上調査をする事にしたのだが
その際に訪れた北見という探偵のところで、ひとりの
女子高生と出会う。彼女は連続無差別毒殺事件で祖父を
無くした女子高生だった。
この女子高生の身に降りかかった事件に杉村は巻き込まれて
行ってしまう。
こうして杉村を中心として二つの事件が同時進行という
形で物語は進んでいく。
杉村のアシスタントである女性の引き起こすトラブルが
普段の私達の周囲でもよくありそうな出来事であったり
するのだが、そこからエスカレートしていく様は異様で
あり、薄気味悪さを通り越して言い知れぬ怖さを感じさせる。
トラブルがエスカレートしやがて警察沙汰となったときに
両親が謝罪に訪れるのだが、そこで語られる彼女の過去は
その毒の強さに読みながらも引いてしまう程。
自分のあるべき姿の理想に近づけないでいるもどかしさに
苛まれそれが歪んだ形で外に吐き出された時の毒の強さは
衝撃的ですらある。
その毒によって人を死に追いやりながらも、さらにその毒を
増殖していく強さ。どこからそのような負のエネルギーが
噴出すのか。誰もが荷物を背負い手放しで現状に満足出来て
いる訳ではないのに、他人だけが幸せであり、自分が
理想に近づけない現状は許せないとした身勝手な思考の中では
いったいどんな社会が彼女にとっては理想なのだろうか。
しかしこうした他人を羨んだりして、現状の自分と比べて
苛立ちを感じたりするのは決して特別な感情でもなく
どこにでも転がっている負の感情だろう。物語の中で見せる
彼女の行動は言動はその感情が度を越したものであるが、
毒の種は誰の胸の中に棲んでいるものなのかと思うと、改めて怖さを
感じてしまう。もちろん自分自身も含めて。
そして、それとは違った経緯から生じるもうひとつの毒。
連続無差別毒殺事件に関わってしまう杉村。
ひとりの女子高生の精神的衝撃を立ち直らせようとしていく
過程で杉村は事件の真犯人にたどり着いてしまう。
真犯人の意外性から、この犯人のどこにこの恐ろしい事件を
引き起こす毒が潜んでいるのかと思うのだが、彼もまた大きな
荷物を背負っていた。
決して彼の責任ではない、彼を取り巻く現状には読みながらも
痛みを憶えてしまう。
毒殺に走ったという行動は決して許されるものではないにしろ
彼の置かれている状況は社会が、周囲の人間が放つ名もなき毒が
作り出したものであったであろうと思うとそれは決して他人事では
ないのだと突きつけられた気がする。
主人公杉村が彼のもとを尋ねた時に感じた後ろめたさがそれを物語って
いるようでならない。

私は彼を置き去りに歩き出した。どうしても訪問して用件が済んだから
帰るのだという気になれなかった。どうしても彼を置いてゆくという気がした。
傾いた家と折れた雨樋と隙間風の吹きぬける薄暗い座敷と彼の介護を
必要とする老婆とその老衰に病身に匂いと、彼の自由を阻んでいる彼自身
の病と苦しい生活と先の見えない孤独とそうした不遇を彼に押し付けて。

あちらを立てればこちらが立たないという不幸の噛み合わせから逃れられない
彼の現状。弱者を救うことの出来ない、弱者が不幸をほどく努力を放棄させて
しまうような未熟な社会が放つ毒。
そしてその社会を構成するひとつの駒としての自分自身。
他人事ではない問題なんだと感じさせられました。
こうして物語の中ではいくつかの場面にて、読者に向けて作者からの
メッセージが飛んできます。
生きるという事がどういう事であるのかも示しています。
誰もがそれを覚悟しなければいけない現実を突きつけられます。

形の無い、名前の無い、人という名の毒を捕らえ滅するには、それから
逃れず、目を開いて知るところから始まり、解毒を見つけるのもまた
人なのだという思いが読後に残りました。

それにしても、誰の周囲にも転がっていそうな事柄から物語を展開させ
読者を引き付け、読ませる巧さには畏怖さえ感じさせられました。
爽やかさや安堵感はあまり感じられませんが、別の意味で優れた作品と
言えると思います。

 


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火車 [宮部みゆき]

火車

火車

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1998/01
  • メディア: 文庫

宮部さんの作品の中でも傑作と言って良い
作品ではないでしょうか。
ページ数にして600という長編ですが
飽きずに先へ先へと読者を引き込んでいきます。
ラストあたりでは、すこし急ぎ足になった感も
ありますが、じっくり、しっかりと書き込まれて
います。またこの作品を書くにあたり、他の作家
さん達を通して取材をしたり助言を得たり、作品の
質を高める為にも骨を折られたようでその内容の
濃度も深くなっているように感じられます。
物語は、休職中の刑事、本間の甥の婚約者が突然失踪し
その捜索を依頼され事に当るところから始まるのですが
綺麗さっぱりと徹底的に自らの痕跡を消して失踪した
彼女の背後に事件の匂いを感じる本間。
痕跡を消してしまっているだけにその捜索は難航を極める。
僅かな手掛かりから少しずつ彼女の影を追い求めるが
その影が見える度に困惑を深めて行く。
その発端はクレジット社会の深淵にはまってしまった
逃亡者の後姿を追う所からであった。
一時期クレジットカードによる浪費によるカード破産や
消費者金融の債務の焦げ付きによる自己破産、又は
住宅ローンの返済に行き詰っての夜逃げや無理心中の
ニュースがテレビ画面で踊っていたのだが、その実情を
この物語から垣間見たような気がする。
自己破産の持つ暗いイメージ、その実態、債務者の家族が
置かれる社会的な立場、取立ての実態等。

自らの浪費から過ちによって人生を狂わせた者と
自分の家族の過ちによって人生を狂わされた者。
いずれにしてもそこに待ち受けているのは、身分を隠して
生きる逃亡者生活。
こうした出来事を見ていると他人事だと思えない怖さを
感じる。
現代ではクレジットが経済の大きな柱となっているにも
関わらず、これを利用するための教育があまりにも少なく
身を守る為の生きる術も提示されていなような気がする。
時代が変わり巷に物が溢れ、幸せの価値観も多様化する
現代においての豊かさとは何だろうという、人としての
生の根本的な部分への問いかけが胸の奥から頭をもたげてくる。
今よりもより豊かになりたい、そう願い始めたところから
今の自分ではない自分になりたいと、等身大の自分で生きる
ことよりも背伸びした自分を追い求めるところが始まりなのかもしれない。
そしてそれを実現する方法を探したときに、巷に溢れる情報は
危うく、無責任なもので溢れかえっているようにも感じさせられる。
又逆に、懸命に働き、愛する家族と暮らす為の家を持ちたいと
願う、ごく普通の願いが普通ではない高嶺の花になってしまっている
という事実も哀しい限りだとも感じる。

そして物語の中で、本間が感じる事に薄ら寒い怖さを突きつけられる

これから先、お前たちが背負って生き抜いてゆく社会には
「本来あるべき自分にはなれない」「本来持つべきものが持てない」という
憤懣を爆発的に、狂暴な力で清算する
という形で犯罪をおかす人間があまた満ち溢れることになるだろう

また逃亡生活から這い上がるために執念を燃やす彼女の心情が更に
追い討ちをかけてくる。

自分自身を守る為には自分で戦うしかない
父親にも母親にも彼女を守ることは出来なかった
法も守ってはくれない、頼れる人だと信じ庇護を与えてくれると思っていた
男も彼の財力も、いざという時には彼女を見捨てた。
自分の二本の足で立ち、自分の両手で戦うのだ
どんな卑怯な手段でも甘んじて使おう

リアリティがあって深く引き込まれていくが、物語としての展開も飽きさせない。
彼女の影を追っていく過程が丁寧に書き込まれているし、推理を裏切りながら
進んでいくのでページを読む手が止められない。
欲を言えば終わり方に少し注文をつけたいところ。
長いこと逃亡を続ける彼女の心理を読みながらその影を追い、やっとの
思いで彼女に会えたにも関わらず、彼女の口からこれまでのことを聞かずに
幕を降ろしてしまったのは少し残念な気がするが、これは個人的な好みだろうから
物語の出来ということとは少し違うのかもしれない。

一読の価値ありという作品です。


 


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淋しい狩人 [宮部みゆき]

淋しい狩人

淋しい狩人

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1997/01
  • メディア: 文庫

6つの物語から構成される短編集。
物語はそれぞれ独立しているのだが、主人公は
全ての物語において共通している。
古書店の雇われ店主とその孫息子が主人公。
古書店にやってくる客が持ち込む事件に二人が
絡んで物語が進んでいく。
古書店の店主、イワさんこと岩永幸吉。65歳なのだが
重ねてきた人生の長さから人を見る目はしっかりして
おり、思慮深い目で関わる事件を解決へと導いて
いたりする。
その中でも「うそつき喇叭」は切ないけれども、イワさんの
優しさと懐の深さを感じさせる物語。
書店で万引きをしてしまう少年をイワさんが取り押さえる
のだが、何故か殆ど抵抗をしない。
万引きをした行為の裏側に何か事情でも抱えているかのように。
そんな風に感じたイワさんは少年の真意を聞き出そうと
するのだが、少年は頑なに口を割らない。
そんな少年とイワさんとのやり取りにイワさんの人柄が
よく現れている。
やがてイワさんが少年の身に起こっている事を察し、
弱者に対する世間の目と対峙し、少年を包み込む温もりを感じる。
大人になりきれない頭の中が少年の歪んだ大人と、自分を守る
術を持たない少年の捨て身の訴え。
こうした構図なんかは今の世相を反映していたりして、虚構の
中のものとして片付けるにはリアルな感じは読者をより引き込んで
感じる部分があった。
事件はイワさんの一計が功を奏して解決を見るのだが、読後に
切なさを残してくれた。
また表題作の「淋しい狩人」でもイワさんの言葉には共感させられる。
孫息子が水商売の女と付き合いを始める。稔の母親に頼まれて
この女に会いに行くイワさん。二人で話しをするのだが、そこでイワさん
は相手の女に稔との交際についてよく考えるように話すのだが
その言葉には相手をしっかりと見て、上辺を舐めるような言葉ではない
含みのある言葉だった。

稔はあなたにとって、それくらい意味のある男の子なんでしょう。
しかしね、あんたは大人だ。大人が子供を逃げ場にしちゃあいけませんよ

厳しいけれども、互いを思う思慮深い言葉だと感じられる。

個人的には主人公であるイワさんが印象強いのだが、登場する人物達は
どこにでもいる普通の人達であり、そうした人物達によって構成される
物語には、世相を反映した心理描写がされておりリアリティのある作品に
なっているように感じられた。

 


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龍は眠る [宮部みゆき]

龍は眠る

龍は眠る

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1995/01
  • メディア: 文庫

超能力を持つ二人の青年が登場する物語。
まだ若かった頃、こんな力があったらなと
利己的な願望を抱いたこともあったが、この
物語を読むとそんな想いが痛みとなって
胸をチクリと刺してくる。
友達、恋人、親などの心が読めてしまう。
この物語の中では自分の中に入ってくるって
いう表現のほうが近いかな。
聞いてしまえば痛みを伴ったりあるいは胸を
抉るような苦しみを伴ったりと。
人の心の言葉が読めないからこそ、人は平和に
暮らしていけるという事を感じさせられる。
恋人と呼べる、そう思っている相手とのセックスの
時に、耳を塞ぎたくなるような言葉が聞こえて
きたらと思うとやはりそれは苦しみでしかない。
信じていた友達の本心を聞いてしまったら。
やっぱりそう思うと知らないほうが幸せだと感じさせ
られました。
そんな二人が巻き込まれる事件。二つの事件のリンクの
させ方や超能力の事件への絡ませ方も巧い。
さすが宮部さんという感じです。
キャラクターもいいですが、個人的には展開に引きずられて
最後まで読み進んだ感じがします。
読後に、主人公慎二のこのあとの人生はどうなって
人生の中で、その力はどんな位置になるんだろうかと気になった。
もし明日そんな力が自分に宿ってしまったら。
万人の声、呻き、苦しみ、嗚咽、叫びが洪水のように
自分に押し寄せてきたら・・。
そんな事を想うと、不満はあっても今の自分が良いなと
素に感じてしまいました。

 


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取り残されて [宮部みゆき]

「取り残されて」 文春文庫 宮部みゆき

超常現象を使った物語なんですが、人の想い、
悲しみ、憎しみを圧倒的な強さで読者に与えてきます。
 交通事故で婚約者を亡くした女性が一人の少年の
幻と出会います。
で、この幻は、少年時代に担任の先生にひどい扱いを
受けたことのある、現職の警官なのです。
 この少年と出会ったところから物語は転がっていくの
ですが、一人の女性の死体が発見され、この女性は幻の
少年の担任だったのです。そして次は、この女性の夫が
死んでしまうのですが、これを引き起こしたのは、
幻の少年だったのです。ひどい扱いに大きな憎しみを
抱えていて、交通事故で婚約者を亡くして大きな悲しみと
憎しみを抱えていた女性が結果的に呼び出してしまったの
かもしれない。
悲しみや憎しみを清算するには、相手にもそれ相応の
痛みを伴わせるしかないのかもしれない。
交通事故を起こした加害者を殺してしまいたいほど憎んで
いた女性も、一時はそれは出来ないことだと思いなおすが
この事件をきっかけに、憎しみの炎を煽ってしまい再び
復讐へと向かっていってしまう。
憎しみの連鎖とでも言うのでしょうか。
加害者だけが法で護られ、被害者は放っておかれる今の
世の中で、被害者の無念を晴らすのは、こうした形しか
ないのかもしれない、心の奥底でちらちらと燻る怨嗟は
簡単には消えないものなのかもしれないと。
 また、それとは逆の視点でかかれた、「私の死んだ後」
これは少年時代に、過ってひとりの女性を死の淵へ追いやって
しまった野球選手が、ある出来事をきっかけにして再び
苦悩し、やがて右手が挙がらなくなって野球生命を絶たれる
寸前までいってしまう。
そして、街で刺され、死の淵をさまよう時に、この女性と
出会い、その苦悩から救われるのだが、未来永劫この女性から
離れることが出来なくなってしまう。
 加害者の苦悩や罰は刑に服して清算されるものでもなく、
相応の苦しみを伴い、被害者の怨嗟が薄れるまでは背負い続け
なければならないものなのかもしれないと感じた。
 そして「たった一人で」は不思議な依頼主と元警察官の探偵
の物語。なんだか妙な流れで最後はどうなるのかと思いながら
読み進めていたが、最後は哀しくもあり、それでいて明日への
人生への力強さを感じさせる。
 全体的に哀しみと切なさの色に染められている中で、最後の
力強さに、読後感は意外と晴れ晴れしかったりもする。
とてもいい作品と言える物語だったように感じました。


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