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君たちに明日はない [本]

君たちに明日はない (新潮文庫 (か-47-1))

君たちに明日はない (新潮文庫 (か-47-1))

  • 作者: 垣根 涼介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/09/28
  • メディア: 文庫

いいです。楽しい作品です。
流れがあってリズム良く読めます。
5つの章から構成されており、ひとつの
章自体が重くならずにさらっと読める
ので本を開くのに構えてしまう必要も
無く、入りやすいです。
クビ切り請負業務が仕事の村上真介。
クライアントが提示するノルマを達成させる
為、日々リストラ対象者と面接を重ねる。
リストラ対象者となる登場人物のキャラもそれ
ぞれ個性的であって、派手な展開は無くても
十分に楽しませてくれます。
文字を追いながら、頁を捲りながらうなずいて
みたり、笑ってみたり、身につまされたり。
決して退屈させません。
このご時世、勤め人にしてみれば決して他人事
としていられないテーマだけに冒頭から物語に
入り込んでいけます。
5つの章の中で「旧友」とタイトルがつけられた
章ですが、これが印象的でした。
面接を行い、対象者を退職させるのが仕事の真介
なのだが、この「旧友」の章での対象者はかつて
の級友。
その設定だけで結構しんどいところなのだが、
真介は淡々と面接をこなしていく。対象者で
ある級友は腸が煮えくり返る思いでこの面接を受けて
いた。リストラの対象になりながらも、彼のこれまで
の仕事での結果は素晴らしいものだったのが、会社の
合併で閑職に追いやられて将来に見えるのは暗い闇。
妻との約束と会社での立場の狭間で悩み続ける日々。
とどまるべきか、辞めるべきか。しかし辞めた
ところで他にやりたい仕事につける望みは限りなく薄い。
そんな事にお構いなしに級友である真介は辞職を迫り、
級友のよしみなど全くもって欠片も感じられない。
かつては、自分が真介を下にみていたのに、そんな奴
にクビを切られそうになるとは。
そんな時に真介に会社の外で会おうと誘われる。気分が
乗らないままでかけて行ったのだが、これが起死回生の
チャンスを掴むことになる。
辞めさせるだけではなくて、再生までやってのける真介。
首切りの請負人でありながらも、それだけではない真介
の魅力がここに出ている。
そして級友が妻にこの話を打ち明ける場面は印象的だった。
どうにもならない状況に追い込まれた時、そこから抜け出す
にはある意味で命がけで、本当の意味で全力で人生の階段
を上っていかなければないらい。こうした状況で腹を括って
意を決するとき、人の内面での価値観の劇的な変化があった
時っていうのは、美しくもあるなと感じられます。
彼が「オレの生命保険には2億かかっている。・・・言ってる
意味、わかるだろ。実際にそうするかしないかは、問題じゃない
でも、少なくともおれはその覚悟で仕事に取り組む」
そして、この妻の言葉が彼を救ってくれます。
「だいじょうぶ。そんなことあたしが絶対にさせない」
物語の温度がほんの少しだけ上がったように感じました。
この物語、もう一方で恋愛小説としての側面ももっています。
ラストの場面、真介のかつての恋人が、真介と彼女の前から
去っていくのですが、この恋人のさばけた雰囲気がかえって
切なさを引き連れてきます。大人だなと感じさせる半面、
それでも女には変わりない。ほんの一瞬だけ彼の側に近づいて
その姿を目にいれただけで去っていく姿。秋の風が去っていく
ように。
それにしても、きっちりと人を描いているなと感じます。
大きな事件も無く、血が流れることもなく、人の日常の中で起きる
出来事をメリハリのある物語として、その中で人物をしっかりと
描いているなと感じます。
著者の作品としては「ワイルドソウル」が有名ですが、これとは
物語の設定がまったく違っているのですが、今回のこうした物語も
これだけ書けるんだなと、改めて幅の広い作家さんだなと思いました。
気軽に読める中に、しっかりと人の機微と哀切がつまっていて、
いっきに読める流れがある、プロの作品です。

 


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コメント 3

Sho

jokerさんの解説が、手に汗握るように面白いです(笑)。
「ワイルドソウル」を書かれた方ですか。
あの本は、途中でリタイヤしてしまいました。
記事を拝読すると、こちらの御本の方が、作者の力量も上がっているようですね。とても面白そうです。
by Sho (2007-10-06 11:27) 

joker

Shoさん。
niceとコメントありがとうございます。

そうですね、「ワイルドソウル」とは趣を異にする作品です。
おそらく、こちらの作品のほうが楽しめるという方も多いん
ではないかと思えるほどです。
「ワイルドソウル」とか、垣根さんの作品はワイルドなものが
多いんで、読まれたかたはイメージが変わると思います。
この作品の姉妹版というか、真介が出てるのかなぁ。。
「借金取りの王子」ってのも出版されているようです。
こちらもまた読んでみようかと思ってます。
by joker (2007-10-07 18:46) 

joker

うっしいさん。
niceありがとうございます。
by joker (2007-11-11 22:22) 

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