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卒業 [重松清]

卒業

卒業

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 文庫
 
4つの物語で構成される短編集。
どれもが卒業という意味を抱えた作品で感慨深いです。
中でも表題作の「卒業」と「追伸」は印象深く
自身の経験も含めて苦味が胸に広がる作品でした。
「卒業」ですが、主人公渡辺の勤める会社にある日
突然押しかけてくる女子高生の亜弥。
自分の産みの父親は自分が産まれてくる前に、投身自殺で
すでに他界しており、それを知らされたのは亜弥が高校生
になったとき。今まで本当の父親だと思ってきた人に
血のつながりが無いことを知らされる。
自分の血のつながった父親になるべきだった人とは
どんな人だったのかを探す日々が始まる。
そしてその日々のスタートを、本来の父親であるべき男、「伊藤」
の学生時代の親友である渡辺のもとを選んだ。
渡辺はこの日からかつての親友を記憶の奥から蘇らせることを
試みる。しかし友人である渡辺に伊藤の人としての人生、伊藤自身の
全てを語ることなで出来なかった。行き詰った時に渡辺は亜弥の
両親に会い今までの経緯を語り、両親からのフォローを求めるのだが
そんな中で、亜弥は伊藤と同じ道を辿ってしまうのだが、両親の
愛情に支えられて亜弥は次第に、自分の経験していない過去からの
卒業を迎える。
血縁関係であるべき父親から卒業し、血縁関係の無い両親との
新たな家族の絆を築きあげていく。
家族はそこにあるのではなくて、築いていくものなのだと感じる。
物語は物語としての設定はあるが、普段の自らのリアルな日々の中でも
感じるものを改めて物語からのメッセージとして受け取った気分。
「追伸」はこれまた血縁関係の有無を越えた家族の物語。
主人公敬一は小学6年生で母親を病気で亡くす。
闘病生活の中で記した母の日記を読み、自分の母親は永遠にこの人だと
心に刻む。
そんな少年の心をよそに、父親は再婚をする。何の前触れもなく目の前に
現れたふくよかな女性を母親だと受け入れられずに心を頑なに閉ざす敬一。
そして、敬一の大切な、実の母親の日記は父親に取り上げられ、新しい
母親には、この日記が欲しいのなら自分のことを母親と呼べと交換条件を
出されてしまう。自分の母親は永遠に、亡くなった人だと誓った敬一は
この交換条件を飲めなかった。
そんな敬一もやがて大人となり会社勤めをする傍ら、文学賞を受賞する
兼業作家となっていた。母親との関係をテーマにしたエッセイを雑誌に
掲載するようになるのだが、それはエッセイと呼びがたい内容だった。
そんな仕事ぶりを妻はなじり、義母の哀しみを訴える。
またこのエッセイを読んだ義弟もまた義母の苦しみをぶつけてきた。
そして還暦を迎えた義母のもとへ帰省する敬一。
そこで義母の、敬一を思う情に打たれてしまう。
この物語でも血縁関係を超えたところでの家族の情を切なさを伴って
与えられる。
長い年月の誤解を融解する母としての情。
長い年月をかけての母を亡くした悲しみからの卒業。
幼い少年には受け入れがたかった、新たな家庭環境は自分の家庭環境と
ダブって感情移入せずにはいられなかった。
敬一の想いに、自分だったとしてもそう感じるという共感めいた感情と
敬一の父親、義母に対する無神経さに不快を感じたりもしたが、作者の
用意した、義母の深い情には、最後にやられてしまったという感じが
残りました。
家族ならでは温かさと、関係が上手く築けなかった時の家族であるが故の
苦しさが読者の気持ちを右に左にと揺さぶる物語だと言えるような気がします。

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コメント 4

マリリン

いつもいつも、参考にさせていただいています。
これも、読んでみたいなあ・・・・

昨日から「凍える牙」読み始めました。その前に
読んだ「重力ピエロ」はいつ面白くなるのかと期待
しているうちに読み終わってしまいました。

たまには、外れもありだなあ・・・・

県民楽しみが倍増になりました。よろしくね。
by マリリン (2007-03-26 07:01) 

重松さんの作品って親子が題材になってること多いですよね。
確か 以前に 【流星ワゴン】って本を読みました。
今は重松さんの作品だと 【ビタミンF】が読みたいのですが
図書館では貸し出し中なので 空き待ちです。

この本も借りたいリストに登録しておこうっとヾ(*・ω・*)ノ
by (2007-03-26 13:33) 

joker

マリリンさん。
「重力ピエロ」は楽しめなかったようですね。
まぁ、僕のレビューは外れが多いですから
気をつけてくださいね。(笑
by joker (2007-03-27 01:28) 

joker

yukaさん。
重松さんのは親子をテーマにしたものが多いですね。
「流星ワゴン」は私も読みました。
これも親子がテーマでしたね。
ちなみに「流星ワゴン」が、初めて読んだ重松さんの
作品でした。
ただ、重松さんの作品って、泣かせるぞって意図が
強いのがちょっと気になるところでもありますが、そう
感じるのは自分だけかな。
by joker (2007-03-27 01:34) 

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