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殺し屋シュウ [野沢尚]


殺し屋シュウ (幻冬舎文庫)

殺し屋シュウ (幻冬舎文庫)




やくざよりもやくざに見える悪徳警官を父に持つ
シュウ。母親は童話の挿絵を描きながら日々を暮らす。
悪徳警官の父親は仕事から帰ると隣の部屋で母親を
強姦する。必死に耐える母親を見ながらいつしかシュウは
父親に殺意を抱くはじめる。
そして、大学になって実家を離れてしばらくした後、
突然父親がシュウの部屋を訪れる。母親が失踪したと。
行方を知らないかと尋ねられるが心当たりの無いシュウは
知らないと答える。その後父親の寝ている隙に拳銃から弾
を一発抜き出し、母親がいると思われる場所へ向うシュウ。
そこで母親を逃がし、やがて獣のように追いかけてくる父親
を待ちうけ、お手製の仕掛でこっそり抜き出した父親の
拳銃の弾を使って父親を殺害する。
だが、母親は何か感じる部分があったのか、その場所へ戻ってきてしまう。
そして母はその罪を抱えて刑務所へ身代わりとして服役する。
一方シュウは両親の知り合いで裏家業に通じている匠に拾われ
殺しのプロになるべく渡米。過酷な訓練を経て殺し屋シュウが
誕生。そして以後匠から殺しの仕事を請け負う。
この物語では以後5件の殺しの仕事をこなすのだが、そのどれも
がセンチメンタルなタッチで描かれている。
麻薬で声の出なくなったビジュアル系ロックシンガーをライブの
最中に殺害する依頼。
実の父親の殺害を依頼するやくざ。
アルツハイマーの犯される元映画プロデューサーを、自分の病識が
なくなった時に殺害する依頼。
大物政治家の被害妄想から高級コールガールの殺害の依頼。
息子を殺害され、私財を投げ打ってでも復讐をしてくれとの依頼。
人の人生の幕を下ろす仕事の殺し屋。
自分の感情を冷静に制御して的確に仕事をこなすことが肝要なのに
シュウはどの依頼にも感情移入してしまう。
仕事の対象となる人物の人生を垣間見て、その哀しみにシュウの心
が揺さぶられてします。
非情と情の間で揺れるシュウの心模様がセンチメンタルで、行間
から切なさが滲んでくるようです。
個人的に好きなのは、アルツハイマーに犯される老人を殺害する物語。
自殺の丘と呼ばれる別荘地でひっそりと暮らし2ヶ月に一度訪問する
シュウが誰か判らなくなった時が仕事の時。
2年前に生まれた孫の事が思い出せなくなったと匠に本人から連絡がある。
決して弱みを見せない男だから笑い話のように話していた。
おじいちゃんと酔ってくる孫にどう呼びかけてよいか判らない。
名前が判らない。母親が呼んだ名前を呼んでおけばその場は収まると安堵
する。自分の人格がまたひとつ欠け落ちたと自覚させられた時、病識を
失っていないアルツハイマー患者が最も絶望感に襲われる時。
「次がいよいよかもしれない。覚悟しておけ」と匠が告げる。
一ヶ月先まで彼の脳細胞におれの記憶がぶら下がっていることを祈った。
プロの殺し屋でありながら、仕事をしないで済ませいと願う。
和製の007シリーズをこの上ない豪華キャストで制作する事を夢みて
いたこの老人。完成していれば見てみたいと思わせた。
夢に奔走して敗れはしたが、失敗談を笑い飛ばして話す老人。
アルツハイマーという病魔がなければ、まだ夢を追いかけることが出来た
かもしれない。ミクロの病魔に憎しみを抱き、自分が欠けていく哀しみ
寂しさに耐えているこの老人に対する感傷がシュウの心を揺さぶっていた。
シュウの心模様を知ってか知らずか、元映画のプロデューサーである彼は
最後にシナリオを用意していた。切なさが胸の中に広がると同時にやられた
なと思ってしまった。
そして、ラストを飾る物語ではさらに大きなサプライズを読者に用意していた。
これまで死を与えてきたのだが、死から救い出すという構成に変更している。
仕事の対象となる人数は5人。圧倒的に不利な状況に追い込まれながらも
仕事を成し遂げ、守るべき命を死の淵から生を与える事に成功する。
匠に拾われ、アメリカで殺し屋の訓練を受けている時に教官から言われた
言葉に対する答えがこれなのだろうか。
「自分のために生きるのが難しいのなら、誰かのために生きてみろ」
様々な人生を見つめながら、辿りついたところがここなのか。
死に対して畏怖の念を忘れる事なく、戸惑いと迷いで揺れながらも
諦めることなく明日を見つめて日々を紡いでいく先に人生は開ける。
どの人生も平坦なだけのものはない。誰もが自分の人生と闘い明日を見る。
誰もが思い通りに生きられない。血塗られた圧倒的な重荷を背負いながらも
明日を生きるシュウの姿を借りて野沢さんはそんなメッセージをこの物語に
刷り込んでいたのではないかと感じました。


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コメント 4

Sho

そこまで深いお話だったのですね。
でも、とても僭越ながら、野沢さんらしいとも思いました。
読んでみたくなりました。
by Sho (2008-04-14 06:32) 

野沢

行間に忍ばせた思いまでも感じようと読んでいただけたこと、とても嬉しいです。ありがとうございました。
by 野沢 (2008-04-14 14:58) 

joker

Shoさん。

野沢さんの作品はどれも生きる事に対しての
野沢さんなりのメッセージが刷り込まれている
ような気がします。いくつかの作品を読みました
けど常に全力投球されいるなと、当たり前の事
ですけど、改めて感じました。

by joker (2008-04-14 23:20) 

joker

野沢さま。

果たして自分が野沢さんの作品に込めた想いを
どこまで読めているのかは、自信がありませんが
作品に対する真っ直ぐな想いは強く感じます。
野沢さんの作品が多くの方の明日を生きる勇気に
なれば嬉しいなと思います。

by joker (2008-04-14 23:27) 

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