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ラストソング [野沢尚]

 

若いと言える時を、遠い過去に置き去りして、
それと引き換えに何を学んで来ただろう。
自分の足でどこへ向かっていくべきなのかを
自分で決めるようになったのはいつの頃から
だったろう。
そして若さとは別に、何を捨てて来たのだろう。
「ラストソング」この本を読むと主人公と同じ
頃の自分は何を考え、何を夢見て、何に苦しんで
居たのだろうかを記憶の底から切なさを伴って
呼び出されてしまう。
主人公の修吉は九州の、アマチュアバンドがデビュー
する登竜門と呼ばれるライブハウスでは実力、
人気ともにトップのバンドでボーカルをしていた。
東京のプロデューサーに拾われ、デビューを間近に
控えていた。そしてこのライブハウスが閉店をする
夜に一矢と倫子とに出会う。
一矢のギターに衝撃を受け、それまで弱いとされていた
修吉のバンドのギター、ケンボーとの交代を考える修吉。
一矢に出会うまでは、プロデューサーには、ケンボーを
育てると豪語していた修吉であったが、一矢のギターを
聞いた時から、修吉は一矢をメンバーに入れる衝動に
駆られ、それは消えぬものとなって胸のうちに居座り続けた。
 倫子は九州でラジオのDJをしていて、取材としてこの夜
ライブハウスを訪れたのだが、結局修吉に鼻であしらわれて
しまうのだが、収まりきらない倫子は酒の勢いで修吉に絡み
つづけ、結局修吉のアパートで一夜を明かしてしまう。
 修吉の刃物のような鋭い激情と、その裏の包み込む優しさに
触れ、今まで敷かれたレールの上を歩くだけの人生から
一歩踏み出し、自分の意志で修吉と共に夢を目指し始める。
 一矢を自らのバンドに入れるべく、修吉は一矢を口説きに行く。
修吉らしい言葉に、一矢は心動かされ共に夢を実現させようと
決意を固めた。
 東京への旅立ちを目前にし、練習をしていた時修吉はケンボー
を容赦ない言葉で責めていた。
 そこへ一矢が現れ、事の状況を察したケンボーはいたたまれずに
飛び出してしまい、代わりに一矢がケンボーのポジションに収まった。
 そして、東京への旅立ちの日。駅のホームに現れたケンボー。
 掲げた拳の中に別れの言葉をしまいこみ、エールを送っていた。
 不器用な別れの中にケンボーの切ない想いが詰め込まれていた。
 ケンボーの瞳は涙が溢れ、修吉の瞳にも涙の膜が覆っていた。
 夢のために、切捨て裏切りとなったが、二人の間にはそれを越えた
切ない想いが、言葉を越えたところで共有されていた。
このシーンには心動かされ、胸が詰まる想いだった。
 こうして旅だちを果たしたのだが、なかなか結果がついてこなかった。
ドサ周りの毎日。掲げていた大きな夢と、叶った夢は大きくかけ離れ
ていた。掲げていた夢は日々の生活の中で少しずつ擦り切れていき、
やがて大きな転換を迫られることになる。
 プロデューサーが修吉から一矢へ乗り換えたのだった。
かつて一矢を得るために、ケンボーを切ったように。
 3人の間で激しく触れる感情の振り子。
 一矢の才能を認めつつも、この結末に荒れる修吉と、夢に手が届く
可能性が見えてきた一矢。メンバーの中での再びの裏切り。
 一矢のソロとしてのデビューでもあり、他のメンバーをも切り捨てる
選択だった。
二人の見つめてきた倫子。そして倫子を必要としている一矢
の想いがより3人の関係を複雑にしていった。
 しかし、一矢の曲は自らの想いの断片を切り売りするようなもので
あり、やがて曲作りに苦しむようになり、一矢をプロデュースする事
になった修吉と、二人を見つめる倫子にも大きな影を落としていく。
 一矢が求めていたものと、修吉の向おうとする場所とが大きく違い
を見せ、一矢はそのことでも苦しんでいた。
 大きなライブに新曲を披露する事になっていたのだが、曲が作れない
一矢は現実逃避。ライブに穴を開けることになったら首がとぶ修吉。
 ライブ当日のリハーサルになっても現れない一矢。皆が気をもむ中
で、倫子は一矢の居場所に気づいた。
 一矢を迎えに行った倫子。そこで交わされた二人の会話はとても
印象的で、この物語に込めた作者の想いが伝わってくる。
 3人でここまで来たことが壊れようとしている事に恐がる一矢。
そんな一矢に語りかける倫子の言葉は、切ないが決意に満ち力強さを
感じさせてくれた。
 「人のためとか、友達のためとか、そういうことで生きていく
時代は、多分、自分の足で通り過ぎなきゃいけないの。それって
キツイよね。でも、やんなきゃしょうがないの。三人で選んじゃ駄目。
一矢の足で、あたしの足で・・・・・・一人で選ぶ道なの」
 かつて、修吉がケンボーを捨て、一矢が修吉を捨て、倫子が3人の
関係を断ち切っていく。
 裏切りとも思える事が、人として生きていくうえでは、避けては
通れない道である事。多かれ少なかれ、事の大小はあるにしろ、
誰もがこうした道を通りながら大人になって自立していく。
 切ないことではあるけれど、それは決して後ろ向きではなくて
未来へと新たな一歩を踏み出す通過点であり、成長という人としての
前進でもある。
 若いときのままで、老いてはいけない。
 男達の友情と裏切りを熱く描きながら、未来への希望を紡ぐ、
野沢さんらしい暖かく優しい物語だと想います。
 今を生きる若い世代の人には少々、青臭く感じられるかもしれないが
その本質には時代を越えた共感できる部分があるような気がします。
 自分の夢を真っ直ぐに見つめ、人生に正面からぶつかっていく姿は
感動的です。
 すでに絶版となり、私のホームタウンの図書館にもこれはありません
でした。手にする機会は少ないかもしれませんが、素敵な物語である
作品であり若い世代の人にも、それを過ぎてしまい、沢山の事を知った人達
にもいい作品であると思います。
 この作品は映画が先で、あとから小説という形になった作品のようで、
映像を見ていないのが残念なのですが、映像を通して見る修吉や一矢、
倫子はどうだったろうと想像を膨らませています。
 小説としての「ラストソング」は力強く、印象が強い作品です。


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コメント 6

残暑お見舞い申し上げます!
まだまだ毎日暑いですね (´ω`;)

この作品は映画も本も見た事はないんですが
帯の一言になぜだか惹かれるものがありますね。
記憶を辿っても 友達を失くした思い出は無いけれど
すごく気になっちゃいました。
早速 図書館のHPで調べたら閉架図書にこの本があるようです。
今度行った時に職員さんに出してもらおっと(☆^ω^)
by (2007-08-21 18:06) 

野沢

貴重なハードカバーでお持ちとは・・・驚きと感動です。
また、素敵な言葉で感想を表現なさっていて、まるで一個の読み物のように読ませていただきました。
ありがとございました。
by 野沢 (2007-08-22 04:28) 

joker

yukaさん。

本当に毎日暑いですね。今日も酷暑でした。
ご自愛ください。
で、この本の帯にある言葉。
この言葉に辿りつくまでの展開が切ないです。
そしてこの言葉の後に続くシーンがまた感動的です。
もし借りられるようでしたら、読んでみてください。
by joker (2007-08-22 18:54) 

joker

野沢さん。

この本はネットで何とか手に入れました。
そして読んでみて、より貴重な本だと思いました。
大切に手元において置きたい作品です。
そして、後書きに記されたように、この「ラストソング」
という列車に多くの人が乗り、乗った人々はきっと
心動かされ、野沢さんの想いに心暖められたのではないでしょうか。
そして、これからも多くの人の心を動かしてくれる事を
期待しています。
by joker (2007-08-22 19:01) 

Sho

こちらの作品は、映画もありましたね。もっくんが高く手を上げている写真と、安田成美の清楚なワンピース姿がとても印象に残っています。

今、jokerさんの記事を読ませていただき「ああ、そういうお話だったのか・・・」と、感慨に浸っております。
野沢さんは、科白がうまい方でしたね。ご紹介の科白も、ああいいなあ・・と、心に染みます。確かにそういう時代が、人にはあるのでしょうね。
by Sho (2007-08-22 21:00) 

joker

Shoさん。

そうですね、野沢さんの科白は確かに良いですよね。
飾ったところが無いけれど、胸に響く強さがあるなと
思います。
自分の人生の道は自分で探して、その道に自分の足で
立って、自分の足で歩いていく。
誰かにもたれ掛かったり、誰かのせいにしたりしていたら
それはいつまでも自分の人生ではないような気もしますから。
誰にでもそういう時代があると思います。
by joker (2007-08-24 00:09) 

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